仙台高等裁判所 昭和26年(ネ)45号 判決
控訴代理人は本案前の判決として「原判決を取消す。本件訴を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、本案につき主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において「被控訴人の有する特許番号第一七八、一二五号滋養食品製造法の特許はその名の示すとおり方法の特許であつて、物の特許ではない。方法の特許は公知公用の物についても、飲食品又は嗜好品についても許されるのであつて、現に公知公用の酒その他の飲食物についても多数の特許の存することは顕著な事実である」と述べた外、原判決事実摘示と同じであるから、ここにこれを引用する。(立証省略)
三、理 由
まず本件につき控訴人が当事者たる適格をもつかどうかの点につき考察する。
被控訴人の提起に係る本件の訴は要するに、三本木税務署長が酒税法及び国税犯則取締法に基き被控訴人に対してした差押処分の効力を争い、その無効確認を求めるというのであつて、行政事件訴訟特例法第二条の「行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴」にはあたらず、同法第一条の「その他の公法上の権利関係に関する訴訟」にあたるものと解すべきであるが、この種の訴はその目的が当該行政処分の結果生ずべき権利乃至法律関係の存否を争うというよりも、むしろその行政処分自体の違法を主張しその処分の効力を争う点において「行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴」と彼此相通ずる性格をもつものということができる。もとより右のような無効確認訴訟につき当該行政処分によつて生ずべき権利又は法律関係の主体たる国又は地方団体が被告たる適格を有することは否定できないであろうけれども、行政処分の取消変更を目的とする訴訟につき行政事件訴訟特例法第三条の規定を設けた趣意に顧みるときは、右の訴訟と相以た性格をもつ本件のような訴についても同条の規定を類推適用し、無効確認の対象たる行政処分をした行政庁を被告とすることを妨げないものと解するのを相当とする。されば本件につき控訴人三本木税務署長に当事者たる適格なしとする控訴人の主張は採用し得ない。
よつて以下本案につき審究する。
(一) 被控訴人が昭和二十三年八月二十日出願公告、昭和二十四年三月十二日登録に係る特許番号第一七八、一二五号の特許権を有すること控訴人が酒税法第六四条、国税犯則取締法第二条、第三条に基き被控訴人の所有又は占有に係る右特許権実施の供用物件、原料及び製品につき原判決添付目録記載のとおり差押処分をしたことは当事者間に争がない。
(二) 成立に争のない乙第二号証によると、被控訴人の有する前記特許権は「滋養食品製造法」と称し、その内容は「[禾參]、大麦、小麦その他の穀類及び雑穀類を脱脂乳に浸漬して蒸炊し、種麹を加えて製麹しこれを乾燥した物又は出来上りのままの物に牛乳と酵母を加えた液を吸収させ、乾燥紛末とすることを特色とする滋養品製造法」であることが認められ、これによつてみれば、右特許権の範囲は、右のような方法によつて滋養食品を製造すること、即ち物の製造方法に関するものであつて、物自体についての特許でないことが明瞭であり、この認定を妨げるに足る証拠はない。
(三) 一般に麹とは穀類、麩糠などに黴類を藩殖させた物をいうのであつて、麹黴は糖化酵素を含むため穀類その他の物の澱粉を糖化し、又蛋白質その他の成立を分解して可溶性の物質に変化させる作用を有することは顕著な事実である。酒税法第十六条にいう麹も右とその本質を異にするものでないことはいうまでもないが、同法の趣意目的からみて、その糖化醗酵性が澱紛糖化酵素剤として、酒精含有飲料その他の製造に利用するに足るものを指すものと解するを相当とする。而していやしくも製出される物質が右酒税法にいう麹に該当するものと認め得る限り、その名称もしくは製造の目的の如何を問はず、またその製法が特許権の実施によると否とにかかわらず、酒税法第十六条による許可を要するものといわなければならない。このことは製造目的の最終段階における製品が麹に当る場合は勿論のこと、製造の過程において製出される物質が麹に当る場合も亦同様というべきである。
(四) 前記乙第二号証、成立に争のない乙第四、五号証に徴すれば、被控訴人の有する前掲特許の方法により製造した物件、即ち
(1) 穀類、例えば米を脱脂乳に浸漬して蒸炊し種麹を加えて製麹したもの、
(2) 右製造工程(1)のものを乾燥したものに、又は出来上りままのものに、牛乳と酵母を加えた液を吸収させて乾燥したもの、
(3) 右製造工程(2)のものを粉末としたもの、
以上各段階の製出品はいずれも官能上、微生物学上、化学分析上及び酵素力上等からみて一般の麹との間に特記すべき差異がなく、充分な糖化醗酵性を具有し酒精含有飲料の原料として使用し得るものであることを認めるに十分であり、右特許の方法によつて造られた物に含まれる蛋白質、燐酸、石炭、灰分等が一般の麹よりも幾分多いことは前記乙第五号証により推知し得るけれども、そのために右特許の方法により製出された物が麹に当らないものということはできない。要するに被控訴人の有する本件特許の方法によつて製出される物は、最終段階の製品のみならずその製造過程中に造られるものも酒税法第十六条に所謂麹にあたるものと認めるに足り、この認定を動かすに足る証拠はない。
以上説明の次第であるから、前記特許の方法によつて製造される物が酒税法にいう麹に当らないことを前提とする被控訴人の本訴請求は爾余の点についての判断をまつまでもなくすべて失当として排斥すべきである。右と異る見地に立つ原判決は失当で本件控訴は理由があるから民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 猪狩真泰判事岡本二郎は填補のところ帰任のため署名押印することができない。)